「 神技”で世界大会連続優勝 超有名人らが絶賛の拍手」
(毎日新聞:2006年1月15日掲載)
すごい男がいたもんだ。
パフォーマンス世界最高峰の大会EOTY(エンターテイナー・オブ・ザ・イヤー)で2回優勝。
神業的なパフォーマンスに、あのトム・クルーズ、スティーブン・スピルバーグ監督、タイガー・ウッズらが絶賛の拍手を送った男。 彼、金昌幸さんは今年(2006年)成人式を迎えたばかりの在日朝鮮人3世である。
1985年、強制立ち退き問題が進行中のウトロ(京都府宇治市)で生まれた彼は、「小さいころからジャッキー・チェンやJリーグの廬廷潤に憧れていたので、母親から『あんた、日本人ちゃうで』と言われたときはすごく嬉しかった」という。
中学2年の春休み、何気なく母に買ってもらった一本のビデオテープが運命を決定づけた。
ジャグリング界のカリスマ、アンソニー・ガットーがEOTY90年でチャンピオンになった映像だった。
「涙が出て止まらなくて、こういう人になろうと思ったんです。人間にはいろんな道がある。努力すれば認められ、舞台で観客の生の拍手を受けることができるんだと」
猛練習が始まった。ヨーヨー、リング、ディアボロ(空中独楽)などを上下左右に両手で操る。休みの日には10時間以上。本に載っていた技の数々を一カ月でマスターし、さらに新しい技を編み出した。靴には鉛を入れ、毎日腕立て伏せ200回10セットをこなした。
それからわずか1年後。
EOTY2000年大会出場を決意し、単身米国フロリダ州に向かった。参加者は1100組。スーツ姿の一流たちが次々と演技をする中、彼はジャージ姿で舞台に立った。客席から笑いが起こった。 「普通は正装して、ゆっくりした曲で一本ずつ技を決めていくんですが、そこに目をつけて、人と反対のことをしようと思ったんです。速い曲で、最後まで技を止めない。すると笑いがだんだん手拍子に変わっていきました」
その結果、弱冠14歳にして、アジア人には不可能と言われた頂点に立った。審査委員のガットーから金メダルを授与され感動に震えた。
それだけではない。EOTYは毎年開催されるが、4年毎に出場することにし、04年モントリオール大会に参加した。そして今度は3500組を制して連続優勝を果たした。EOTYに刻まれた3回連続優勝記録に王手を掛けたのである。
日本ではパフォーマンスの評価が極度に低いが、欧米では最高級のエンターテインメントとして賞賛される。彼は国内外の一流会場に招かれ、超有名人たちが駆けつける。
ところで私が彼を初めて見たのは昨年11月、京都朝鮮第二初級学校創立40周年記念式典の仮設舞台だった。
目まぐるしく動く両手と共に七つのボールが空中を舞う。あ、一つ落としたと思うと、足先で拾ってポンと上へ上げる。三つのディアボロが生き物のように飛び交う(3個を扱えるのは世界で彼一人)。お次は軽快なブレイクダンス。昔、器械体操を経験した私は、片手倒立を軽々とやってのけるのを見て度肝を抜かれた。
俗っぽい問いだが、世界的名手がなぜ片田舎の舞台に?
「人が楽しんでくれるんなら、お城の女王の前であろうと、地蔵盆であろうと、場所は関係ありません」と言い切る彼の手が目に入った。両親指は黒く変形し、すさまじい練習の跡を示していた。
「ライブは自分が一番輝ける場」と素直に語る彼は、以前「ミスター・マシュー」と名乗っていたが、昨年から本名で通すことにした。
「前にCMの話が来たとき、在日と分かった途端断られたことがありました。国のことでバッシングするのはおかしいですよ。ぼくが本名でやれば、自分だけの名誉じゃなく、そういう社会を変えるのにプラスになると思いますから」
人間は努力すれば神業をも得ることができることを証明した彼に心からエールを送りたい。
(文 高賛侑) |