活動報告

韓国国会議員総選挙にむけて在日同胞政策に対する要望書を各政党に伝達

 きたる4月10日に予定されている第22代国会議員総選挙に向けてコリアNGOセンターでは在日同胞政策に関連して3月に以下の要望書を各主要政党(国民の力、共に民主党、進歩党、緑色正義党、祖国革新党)に伝達しました。2023年6月に在外同胞政策を推進するための新しい政府機関である在外同胞庁が新設されて初めての国会議員選挙でもあり、今後の在日同胞政策にとっても重要な選挙といえます。
 ※2024.3.27 各政党から届いた回答書をこちらに掲載しました。

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《在日同胞政策に対する要望書》

 私たちは、きたる4月10日に実施される第22代国会議員総選挙が日本に暮らす在日同胞にとっても非常に大きな意味を持っていると考えております。ついては今後の在日同胞に対する政策について、以下のように要望いたします。ぜひとも、選挙公約としてとりいれていただき、今後の政策に活かしていただきますよう、よろしくお願いいたします。また日本における在外選挙有権者への情報提供のために、以下の内容について貴党が現在どのような見解であるか、3月23日までにご回答いただけますようお願いいたします。

【在日同胞政策の基本方向】

 植民地時代から100年以上の歴史をもつ在日同胞社会は、日本の差別・排外政策と南北分断の影響を直接的に受けるという困難な状況のもとにあっても祖国の国籍を維持する者が未だ半数以上であり、かつ民族性を保持しつつ世代を重ねてきたという点で特殊だといえます。同時に日本国籍を有する在日同胞の増加や、ニューカマーの増加などを考えれば今後の韓日関係を展望する上でも大きな存在となっています。そうした状況を踏まえ、私たちは今後の在日同胞政策を考える上で、1.人権擁護と生活権の向上、2.在日同胞コミュニティ活性化、3.韓国社会との多様な疎通、交流の拡大、4.南北関係・韓日関係改善の4つの基本方向にもとづいた政策が必要であると考えています。

【政策要望項目】

1.人権擁護と生活権の向上

①民族教育活性化、次世代育成への支援

 現在、在日同胞の民族教育は民族学校、民族学級など既存の教育事業を通じて行われています。しかしこうした教育機会は関西地域に集中しており、地方はもとより東京ですら民族教育の機会が保障されているとは言えません。また新規入国者、国際結婚家庭、日本籍帰化家庭など、子どもたちも多様化しており、民族学校、民族学級のみならず地域を中心とした社会教育など、多様なニーズに応える形での民族教育を実施していくことが求められています。また子どもたちへの支援と同時に、民族教育に携わる教育者の育成のためのプログラムの開発と実施、在日同胞向けのハングル教育の機会拡充、支援リソーズ(財政支援、人的支援、教材支援など)の柔軟でより効果的な活用が求められています。こうした課題に韓国政府としての積極的な関心と支援を要望するとともに、具体的な施策に関する論議をする機会を設けて頂きたいと思います。

② ヘイトスピーチなど人権侵害に対する対応

 いまだに在日同胞に対するヘイトスピーチや、ウトロ地区での放火事件にみられるヘイトクライムなどの憎悪・差別による犯罪が継続し、在日同胞は生命の安全に対する不安と恐怖を感じています。2016年には「ヘイトスピーチ解消法」が成立をしましたが、日本政府はいまだにヘイトスピーチ、ヘイトクライムに対する規制、禁止、厳罰での対応には消極的です。こうした状況で韓国政府として在日同胞保護の観点からのヘイトスピーチ、ヘイトクライムを許さない明確な姿勢を示すとともに、日本政府に対してもヘイトスピーチ規制を求めるよう要望いたします。

③ 在日同胞高齢者・障害者無年金問題の解決

 解放後日本政府が外国人を社会福祉の対象外としていたために生じた在日同胞高齢者無年金、障碍者無年金問題も日韓議連などでは早期解決に向けた決議もされているにもかかわらず、いまだに解決されていません。この問題の解決の第一義的な責任は日本政府にありますが、解放後、日本の差別的政策のもとで苦しんできた無年金状態にある在日同胞一世らや在日同胞障碍者の生活権を守るためにも韓国政府として早急問題解決を図るための日本政府への働きかけを要望いたします。

④ 韓国在住の在日同胞の兵役等の義務および権利について

 2011年11月の兵役法施行令改定により、1994年1月1日以降(現在はそれ以前出生者も含む)に生まれた韓国籍の在日同胞男性は、母国修学期間を除き、通算3年以上韓国に滞在すれば、「在外国民2世」の地位を失い、兵役義務を課せられることとなります。しかし十分な民族教育を受ける環境も与えられないまま暮らしてきた三世、四世の在日同胞青年たちが兵役対象になることは、権利が保障されないまま義務のみを強要する祖国との関係を否定的にとらえることにつながります。こうした現状をふまえ「3年以上経過すれば在外国民2世とみなさない」との規定の見直しを要望します。また日本で生まれ育った在日同胞青年たちが兵役義務を遂行することが困難な場合の対応の必要性、あるいはより韓国社会で活躍できる機会の拡大という観点からも、兵役義務を他の業務(地方自治体など公共機関での日韓交流など)で代替する方案の検討も要望いたします。また、兵役義務を履行した在日同胞に対する韓国国内における諸権利、具体的には国民健康保険・各種公的住宅入居および融資・師範大学入学および教員採用試験からの排除など、差別的処遇に対する早急な改善を求めます。

⑤ 在日同胞の現状に即した法的処遇の整備

 植民地時代から100年以上の歴史を有する在日同胞も世代を重ね、すでに4世、5世となり、オールドカマーのみならず、ニューカマー、日本国籍者も増えて歴史的背景や法的処遇も多様になっています。また現在韓国に居住している韓国国籍の在日同胞は、実質的には「多文化な韓国籍保持者」なのですが、内国人とは異なる住民登録制度によって管理されているため、社会福祉政策などで韓国国民としての制度適用も受けられず、その一方で外国籍者に適用される各種の多文化家庭に対する施策からも排除されています。こうした状況にある在日同胞の中には、すでに韓国に30年近く居住している事例すらあり、この間、納税などの義務を内国人と同様に履行してきています。こうした問題を早急に解決する必要があると考えます。また、いまでは一定祖国往来が認められている「朝鮮籍」同胞の処遇に対する改善も必要もあり、さらには国籍法改正以前に出生した母系が韓国籍である日本籍同胞が在外同胞ビザ(F-4ビザ)から排除されるケースも散見され、祖国との繋がりを積極的に求めるに際して障壁となっています。こうした課題は在日同胞の権利問題であると同時に、今後の在外同胞を含めた韓民族コミュニティの多様性を発展させるという点からもより柔軟に検討される必要があります。

⑥ 日本の外国人地方参政権実現に向けて

 韓国では2006年に永住外国人の地方参政権が認められ、投票が実現していますが、日本ではいまだに実現していません。しかし今後日本のなかで在日同胞が、自らの民族性を保ちつつ、日本の地域社会に参画して、日本社会と共生していく上でも、地方参政権の重要性はいうまでもありません。ぜひともその実現に向けて日本政府に要望してくだることを求めます。

2. 在日同胞コミュニティ活性化

① 大阪コリアタウンへの支援拡充

 戦後、日本における外国人の中で多数を占めてきた歴史がある在日同胞は数々の権益運動を通じて処遇の改善と日本社会における発言権を獲得し、現在も在日外国人のなかでの存在感を有しています。こうした経験、成果を日本における多文化共生政策に反映させていくことが在日同胞のみならず、在日外国人総体の利益に資するところです。しかしその一方で在日同胞の多様化とそれにともなうコミュニティの縮小も見られ、その存在感や発言力の低下も懸念されます。こうした中、多様な課題(人権課題、次世代育成、日韓交流、文化発信など)に在日同胞コミュニティが対応していくためにも多様な在日同胞団体、個人と韓国政府との疎通と交流の機会を拡大し、より柔軟で効果的な支援をおこなっていくことが重要だと考えます。その具体的な課題として多様化し分散化している在日同胞コミュニティ活性化にむけ、「可視化した象徴」的存在としての大阪コリアタウンの役割は大きいと考えます。また大阪コリアタウンは在日同胞コミュニティの象徴であると同時に、韓国文化の発信拠点、歴史・人権の学びの場、日韓交流、地域の多文化共生の場として広く知られています。こうした点もふまえ、韓国政府として大阪コリアタウン活性化への積極支援を要望いたします。

② 次世代育成のための青年支援の拡充

 これからの在日同胞コミュニティにとって在日同胞の次世代育成と多様なネットワークの拡大は非常に重要な課題であり、青年たちが出会い、学び、交流できる新しい仕組みとプログラムの開発が求められています。韓国政府が自発的な青年世代の活動をより柔軟かつ多様なチャンネルを発掘し、現地のニーズに即したより実効性のある支援をおこなっていただけるよう要望します。

3. 韓国社会との多様な疎通、交流の拡大、

① 統合的な在外同胞政策の推進体制の整備

 現在の在外同胞政策は、在外同胞政策委員会、在外同胞庁、政府各部署の関連事業などで推進されています。いま世界各国に暮らす同胞は、190カ国以上、750万人にも達するといわれており、国内総人口5000万人のうち約15%にも達します。そして海外同胞は、その歴史的経過、居住国との関係などを見ても非常に多様であり、直面している課題もさまざまです。またいまや世界化の進展の中で、海外同胞の諸問題の解決に寄与し、在外同胞と韓国社会との紐帯を強め、ひいては韓国と居住国との関係を発展させていくネットワークを活性化させることが重要な課題となっています。こうした大局的な観点から、統合的な在外同胞政策を推進する体制を整備していくことを求めます。また2023年6月に設立された在外同胞庁はこうした点から設立されたものと理解しておりますが、その政策の対象が実質的には韓国で住民登録を行った経歴を持つ、自発的移住による在外国民もしくはその子孫に限定され、住民登録を持たない在日同胞が不利益を受けるのではないかという懸念が在日同胞社会に存在していることをお伝えすると共に、非自発的移住経緯を持つ在外同胞(在日同胞・中国同胞・高麗人同胞)が排除されることのないよう配慮を求めます。

② 多様な在日同胞との疎通

 オールドカマー、ニューカマー、日本国籍者など在日同胞社会も多様化しており、また居住地域でも大都市圏や地方では大きな格差があるなかで、民団一辺倒の画一的な在日同胞施策を行っていくだけでは在日同胞社会の活性化につながらないことはこれまでの歴史が証明しています。各地で人権擁護、教育、高齢者福祉、日韓交流などの課題に関して自発的にとりくみを進めている団体、個人も少なくありません。より効果的な在日同胞施策を推進していくためにも、こうした幅広い人々との疎通を広げ、実効性ある在日同胞政策を進めるためのネットワークを拡充することが求められています。そのための積極的で幅広い支援を要望いたします。

4. 南北関係・日韓関係改善

① 韓半島の平和実現のための南北関係改善に向けた対応

 私たち在日同胞は、南北分断の悲劇の直接的な影響を受けてきたがゆえに、何よりも南北の和解と交流の促進、平和共存・共栄を願っています。残念ながら昨年から今年にかけて北朝鮮が統一放棄を宣言し、南北の関係関係が極めて悪化する困難な状況にはありますが、だからこそ韓国としては韓半島の平和統一の理念を堅持し、南北の平和共存・共栄は必ず成し遂げなければならない課題であり続ける旨を表明することが緊要と考えます。またいたずらに南北の緊張を高めるのではなく、周辺国にも働きかけて韓半島の平和実現のための対話を推進していただきますよう強く要望いたします。

② 韓日関係改善に向けた対応

 韓日両国は、東アジア地域の平和と繁栄にとって不可欠で最も重要な隣国関係であることはいうまでもなく、在日同胞の生活にとっても韓日関係がどのような状況にあるかは極めて大きな影響を与えるものです。この間の韓国政府の対応もあり韓日関係が改善を見せ、人的、文化的交流も拡大していることは歓迎すべきことだと考えます。しかしその一方で、「徴用工」問題をはじめさまざまな課題は継続しています。私たちはいまだ未解決の過去の清算に対して、被害者の声に真摯に向き合いながら、建設的で、問題解決を志向する姿勢を堅持しつつ韓日関係改善に向けた最大限の努力を要望いたします。

③ 韓日交流プログラムの拡大

 韓日間では経済・文化・スポーツ・青少年交流などあらゆる分野での交流協力が進められており、日本でも音楽、ドラマなど韓流コンテンツに関心を持つ人々が増加し、文化を通じて社会、歴史への関心も広がりを見せています。今後とも多様な分野での韓日交流の拡大に向けた支援を要望いたします。同時に、韓日交流活性化、在日同胞の次世代育成という観点からも多様な在日同胞との疎通と連携を図っていただきますよう要望いたします。

2024年3月

特定非営利活動法人コリアNGOセンター
代表理事 林範夫 郭辰雄

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