昨年末より京都府が「京都府人権尊重の共生社会づくり条例(仮称)」制定に向けて条例骨子案のパブリックコメントを募集するなどの対応を進めるなか、1月20日、コリアNGOセンターをはじめ、京都府の在日コリアン関連団体が京都府庁で記者会見をおこない、現在の内容はヘイト被害を受けてきた当事者に寄り添うものではなく、差別を許さない姿勢も明確ではないとして要望書を公開しました。記者会見後には京都府にも要望書を提出、担当者は要望書の内容を踏まえて検討を進めます」と述べました。
要望書の全文は以下になります。
************************************************
ヘイトスピーチを許さない包括的な差別禁止条例の制定を
「京都府人権尊重の共生社会づくり条例(仮称)」への要望書
京都府議会 2 月定例会で「京都府人権尊重の共生社会づくり条例(仮称)」の制定が議論される予定だという。12 月定例会の文化生活・教育常任委員会で条例骨子案が示され、パブリックコメントが募集された。人権条例を制定すべく、長らくさまざまな個人・団体が努力され、京都府も府民との「協働」を掲げ、すべての府民の人権が守られる社会づくりのために奮闘されてきた。わたしたちは、それらの取り組みに敬意を表するが、今般の条例骨子案の内容には失望しており、憤りを禁じえない。
京都は在日コリアンへのヘイトスピーチ、ヘイトクライムの被害が深刻な地域であるにもかかわらず、この条例骨子案の策定過程で在日コリアンの被害当事者からの意見聴取の場は設けられておらず、パブリックコメントの募集過程でも積極的に意見を求められることもなかった。こうした京都府の基本姿勢は、いまも差別、ヘイトに苦しむ在日コリアンへの視点を欠き、この条例で安心、安全な生活への希望を求める在日コリアンの思いをないがしろにするものであると言わざるをえない。
2009 年 12 月、京都朝鮮第一初級学校に対してヘイトスピーチ・ヘイトクライムが行われた。この事件の民事裁判で大阪高等裁判所は、事件の差別的言動は人種差別撤廃条約の人種差別に該当すると判断した。ヘイトスピーチの標的は、在日コリアン高齢者・障害者の無年金者や、在日コリアン集住地域に対しても向けられた。これらの事件と裁判が嚆矢となってヘイトスピーチ規制が社会的課題となり、2016 年にヘイトスピーチ解消法が制定された。にもかかわらず、各地でのヘイトスピーチは解消されることなく、地方自治体がヘイトスピーチ解消法を補足・補充するために人権条例を制定することになった。そのさなか、2021年8月、ウトロ地区放火という深刻なヘイトクライムが行われた。インターネット上のヘイトスピーチを放置すれば、差別により人の命が奪われるという危機的な社会状況が突きつけられた。
京都府には差別犯罪の再発防止施策を講じるトップランナーとしての役割が期待されていた。たしかに、京都府は、人権相談窓口を設置し、公の施設等の使用手続ガイドラインを策定し、独自にインターネット上のモニタリングに着手するなどしてきたが、それ以外は啓発の取り組みにとどまっている。一方、全国の他の自治体では、大阪市(大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例)を皮切りに、国立市(国立市人権を尊重し多様性を認め合う平和なまちづくり基本条例)、神戸市(神戸市外国人に対する不当な差別の解消と多文化共生社会の実現に関する条例)、川崎市(川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例)、沖縄県(沖縄県差別のない社会づくり条例)、三重県(三重県差別を解消し、人権が尊重される三重をつくる条例)など、各地でヘイトスピーチの拡散防止や禁止を定める条例、外国籍住民や外国人に対する差別の解消や禁止を定める条例が制定されてきた。これらの条例では、多文化共生社会や誰も取り残さない社会がめざされ、条文に差別的言動の定義とその禁止、ひいては罰則が規定されている。
今般の条例骨子案を見ると、人種差別的動機に基づく深刻な差別犯罪であり、地域社会を分断する危険な行為があったにもかかわらず、朝鮮学校ヘイト事件やウトロ地区放火事件といった京都特有の人権侵害事件に触れず、具体的な予防施策を講じる必要性も示されていない。差別的言動についての定義もなく、関心すら示されていないように見える。 それどころか、「全ての府民が、相互に人権の意義及びその尊重と共存の重要性について、理性及び感性の両面から理解を深めるとともに、自分の権利の行使に伴う責任を自覚し、自分の人権と同様に他人の人権をも尊重すること」を基本理念に掲げることで、差別の問題を一人ひとりの「内心の問題」であるかのように取り扱っている。差別は、権利侵害、人権侵害の問題である。人権は、国及びその機関が公的に保障する責務を負うもので、地方自治体にもその責務がある。人権条例を制定するならば、まずは公的機関が差別的言動や差別的取り扱いを行わないことを宣言し、「差別をしてはならない」という明確な差別禁止規定を定め、被害者の人権救済に取り組むべきである。そのうえで、差別解消のためのもう一つの施策として、理性や感性などの内心の問題を教育や啓蒙の取り組みに位置づけるべきである。
この要望書を明らかにしている関連諸団体はすでに2025年1月5日までに条例骨子案の問題点、踏まえるべき観点、検討すべき内容などを整理し、パブリックコメントとして提出しているが、そうした当事者の切実な指摘、要望を京都府として単なる「参考意見」としてとらえるのではなく、真摯に検討することを求めたい。また、現在公表されているものはあくまで条例骨子案であるので、条例案として京都府が整理、作成するにあたって、ヘイトスピーチ、ヘイトクライム被害を受けてきた在日コリアン当事者との面談の場を必ず設けることを強く求めるものである。
京都府の資料によれば2014年から2023年までに外国籍住民は約45%も増加して75,000人を数えており、コロナ以後、外国人インバウンドも急増している。こうした状況を踏まえれば、国際都市、多文化都市として京都府が外国人の人権を保障し、差別を許さない共生社会に向けたとりくみを進めることは至急の課題ともなっている。
本条例の制定に際して、以上を踏まえた審議がなされ、差別禁止規定を明記し、推進計画に人権侵害を受けた被害者の尊厳回復をめざす施策を盛り込み、差別犯罪を繰り返させない実効性のある包括的な人権条例にすることを要望する。
2025年1月20日
京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会
ウトロ平和祈念館
朝鮮学校と民族教育の発展をめざす会・京滋
特定非営利活動法人コリアNGOセンター
在日無年金問題の解決をめざす会・京都