朝鮮戦争勃発74周年を迎える今年、朝鮮半島の緊張がこれまでになく高まるなかで、コリアNGOセンターは以下のような声明を発表しました。
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朝鮮民主主義人民共和国の平和統一理念の放棄に反対し、戦争回避と平和実現に向けた対話を求める声明
2023年から今年にかけて朝鮮半島情勢は大きな変化をむかえている。
12月26日から30日にかけて開催された朝鮮労働党中央委員会で金正恩総書記は南北関係を「同族、同質関係ではない敵対的関係」と規定した。また1月15日におこなわれた最高人民会議では「大韓民国を第一の敵対国として、不変の主敵と見なす」とし、「自主・平和統一・民族大団結」という7・4南北共同宣言(1972年)で掲げられた統一原則の放棄と憲法からの削除を明らかにし、1月には2001年に金正日総書記によって建設された「祖国統一三大憲章記念塔」が撤去されている。
今回の朝鮮民主主義人民共和国の決定は、これまでの、核開発、弾道ミサイル、軍事衛星という武力による威嚇に加えて、大韓民国との一切の対話交渉を遮断し「敵対勢力」と呼ぶことで非和解的な状況を作り出そうとするもので、これによって国内を厳しく統制するとともに外部からの情報を遮断し、長く続く非民主的な世襲体制の永久維持を画策するものといえる。そこでは、民主主義や人権尊重、平和といった普遍的な価値の実現はないがしろにされ、解放後、分断という苦痛のみならず朝鮮戦争という惨禍を経て、2度と戦争の起こることがない朝鮮半島の平和を希求する全ての人々の思いは踏みにじられてしまっている。私たちは、このような朝鮮民主主義人民共和国政府の決定に対して強い反対の意思を明らかにするものである。
他方で、尹錫悦政権誕生以降、韓国は、米国、日本との軍事協力関係をさらに強め、合同軍事演習を頻繁におこなっている。のみならず、3月8日、金暎浩統一部長官は記者会見で「自由主義を反映した新たな統一構想」を掲げ、1989年9月の「民族共同体統一案」を変更することを明らかにした。これは、2018年9月の「南北軍事合意書」の実質的な効力が失われている点にも鑑みると、朝鮮半島の平和ではなく、対決打倒の姿勢を鮮明にしたものと評価でき、朝鮮半島の緊張を高めるものでしかない。
私たちは朝鮮半島の平和を希求する立場から韓国政府に対しても、朝鮮民主主義人民共和国に対する敵対的姿勢をあらため、紛争回避と平和実現に向けた対話再開のための努力を行うことを強く求める。
いまなお続く分断の歪みと苦痛
朝鮮半島の分断は、同じ民族のなかに「敵味方」の対立をもたらし、その結果、南北双方で人々の暮らしよりも「敵に打ち勝つ」ことを最優先に考えるいびつな社会が生み出された。また南北の対立は、家族も引き裂き、いまだに離散家族が再会できない現実は分断の悲劇を象徴するものでもある。
さらに、朝鮮半島の分断は、日本社会でも「見えない38度線」として作用し、在日コリアンもまた本国の政治に翻弄され対立してきた。日本社会の深刻な差別から逃れるために北に未来を求めて渡った帰国者の悲劇や、南に将来を夢見て渡りながら「北のスパイ」として未来を奪われた良心囚の悲劇も、未だ記憶に新しい。
いまだに在日コリアンは、分断による歪みと苦痛を克服することができず、南北の対立は、私たちの日常生活において、地域社会、民族学校など、そこここに残されたままになっている。日本社会からの差別偏見に対して南北を超えて立ち向かうことさえできずにいる。
こうした分断の歪みと苦痛の中で、在日コリアンの人権団体としての視点からさまざまな活動をおこなってきたコリアNGOセンターは、現在の情勢をもたらした南北両政府に対して強い遺憾の意を表すものである。
在日コリアンにとって統一とは朝鮮半島が領土的にあるいは政治体制としてひとつになることが重要なのではない。南北がともに手を取り合い和解と協力を進め、南北、在日が自由に往来するなかで、在日コリアンが自らのルーツを誇りとしアイデンティティを回復するプロセスであり、そこに参画することでコリアンとしての自己実現を果たしていく未来である。そのために1945年解放以後、朝鮮が1つになることや祖国とつながることを夢見て、多くの在日コリアンが当事者としての思いを共有するコミュニティに集い、次世代が差別なくアイデンティティを育み成長できるよう情熱を傾け努力を積み重ねてきた。そして南北を問わず、祖国の発展に寄与しようと経済的貢献や日本社会との橋渡しの役割を担ってきた歴史もある。
平和・統一を放棄するということはこうした在日コリアンの思いを顧みることなく、切り捨ててしまうことだといわざるを得ない。
戦争の時代だからこそ平和・統一を
「戦争」とは、ある日突然起きるものではない。分断された社会の下で、差別や人権侵害、貧困や尊厳の軽視がはびこるなかで、国家のために敵対勢力を打ち倒すことが愛国心であると煽られ、人として当然に保障されるべき人権も敵には認められないものとして、市民の市民に対する惨劇がくり広げられるのである。すでに日本では、過去の歴史否定や歪曲、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムがおこっており、日々、在日コリアンは緊張を強いられている。このような状況の下で、朝鮮半島で戦争が勃発したときには、在日コリアンは南北両政府と日本から「敵」につながるものとして排除と攻撃の対象とされるしかない。
戦争の時代をむかえている今だからこそ、南北両政府には朝鮮半島で再び戦争をおこさない決意が求められている。そのためのめざすべき理念として、南北両政府は朝鮮半島の平和・統一を掲げ続けることを強く望むものである。
2024年6月
特定非営利活動法人コリアNGOセンター