活動報告

主要政党に提出した在日同胞政策に関する要望書とその回答

コリアNGOセンターでは第21代韓国大統領選挙の候補者が決まった5月12日、各主要政党(共に民主党、国民の力、改革新党、民主労働党)に要望書を提出しました。なお共に民主党、民主労働党からは5月17日に答弁書が送られてきています。以下に要望書と答弁書を紹介します。

*****************************************************************

在日同胞政策に関する要望書

 厳しい時期に行われる第21代大統領選挙に立候補された貴殿に心から敬意を表します。
 6月3日に実施される第21代大統領選挙は、日本に住む私たちにとっても非常に大きな意味を持ちます。貴殿が大統領選挙の公約として、在日コリアン政策に関心を持ってくださることを切にお願い申し上げます。
 今後の在外同胞及び在日コリアン関連政策について、以下のように要望いたしますので、ぜひ選挙公約に反映され、今後の国政運営に活用していただきたいと思います。

在日同胞政策の基本的な方向性について

 植民地時代から100年以上の歴史を持つ在日コリアン社会は、日本の差別・排外主義政策や南北分断の影響を直接受ける困難な状況の中でも、祖国の国籍を保持している人が多く、民族的アイデンティティを維持しようと努力しながら世代を重ねてきたという点で、特殊であると言えます。また、日本国籍を持つ在日コリアンの増加やニューカマー(新定住者)の増加などは、今後の日韓関係を考える上で非常に重要な存在といえます。このような状況を踏まえ、私たちは今後の在日コリアン政策を議論する際に、1.人権擁護と生活権の向上 2.在日コリアンコミュニティの活性化 3.韓国社会との多様なコミュニケーションと交流の拡大 4.南北関係・日韓関係の改善という4つの基本的な視点からアプローチすべきと考えます。

【政策提案項目】

1.人権擁護と生活権の向上

① ヘイトスピーチ(ヘイトスピーチ)などの人権侵害への積極的な対応

 近年、日本では、在日コリアンに対するヘイトスピーチやウトロ地区放火事件のようなヘイトクライム(憎悪犯罪)などの憎悪・差別犯罪が絶えず発生し、多くの在日コリアンが不安や恐怖を感じています。2016年に「ヘイトスピーチ解消法」が制定されましたが、日本政府はヘイトスピーチ、ヘイトクライムに対する規制・禁止・厳罰化などの対応に消極的です。 このような状況に対し、韓国政府が「在外同胞・在外国民保護」の観点からヘイトスピーチ、ヘイトクライムを容認しないという立場を明確に示すとともに、日本政府に対してもヘイトスピーチ及びヘイトクライムの規制を積極的に求めることを要望します。

②在日同胞高齢者・障害者無年金問題の解決

 解放後、日本政府が外国人を社会福祉の対象から除外してきたために生じた在日同胞高齢者無年金・障害者無年金問題も、過去、日韓議員連盟などで早期解決のための決議をしたこともありますが、未だに議論すらも十分に行われていません。この問題解決の一次的な責任は日本政府にありますが、解放後、日本の差別政策に苦しんできた在日コリアン1世及び障害者の生活権を守るために、今こそ韓国政府からも日本政府に問題解決を強く要求することを要望します。

③在日外国人の地方参政権の実現

 韓国では2006年に永住外国人の地方参政権が認められ、投票が実現しましたが、日本ではまだ韓国国籍を持つ在日コリアンが投票に参加できないのが現実です。 しかし今後、在日コリアンが自分の民族的アイデンティティを保ちながら日本の地域社会に参加し、日本社会と共生していく上で、地方参政権は非常に重要です。日韓間で何度も議論されてきましたが、未だ解決されていない在日コリアンの地方参政権の実現に向けて、改めて日本政府に要求することを要望します。

④民族教育の活性化、次世代育成支援

 現在、在日コリアンの民族教育は、民族学校、民族学級など既存の教育事業を通じて行われています。 しかしこうした民族教育の機会は関西(関西)地域に集中しており、他の地方はもちろん、首都東京でも民族教育を受ける機会が保障されているとは言えないのが現実です。また、ニューカマー(新定住者)、国際結婚家庭、日本国籍取得家庭など、次世代の在日コリアンの状況自体も多様化しており、民族学校や民族学級だけでなく、地域を中心とした社会教育など、多様な需要に応える形で民族教育を行う必要性が提起されています。

 そして、次世代の在日同胞に対する民族教育支援と同時に、民族教育に従事する教育者育成のためのプログラムの開発と実施、在日同胞のためのハングル(韓国語)教育の機会の拡充、支援リソース(財政支援、人的支援、教材支援など)の柔軟かつ効果的な活用が必要です。これらの課題に対し、韓国政府の積極的な関心と支援を要請するとともに、具体的な施策の策定に向けた議論に在日コリアンが主体として参加できることを要望します。

⑤韓国在住在日コリアンの兵役等の義務と権利について

 2011年11月、兵役法施行令の改正により、1994年1月1日以降に生まれた韓国国籍の在日コリアン男性は、母国での修学期間を除き、通算3年以上韓国に滞在すると、「在外国民2世」の地位を失い、兵役義務が課せられます。しかし、民族教育を受けることができる環境も与えられずに生きてきた在日コリアン3世、4世の若者が兵役の対象となることは、権利が保障されないまま義務だけを強制される祖国との関係を否定的なものにしてしまいます。このような状況を踏まえ、「3年以上経過すれば、在外国民2世とみなさない」という規定の再検討を求めます。
 また日本で生まれ育った在日コリアン青年が兵役義務を履行することが困難な場合に必要な代替案、あるいは韓国社会で活躍する機会の拡大という観点からも、兵役義務を他の業務(地方自治体などの公的機関での日韓交流業務など)に置き換える方策の検討も求めます。
 また、兵役義務を履行した在日コリアンに対する韓国国内の諸権利、具体的には、国民健康保険・各種公営住宅の入居や融資・師範大学入学や教員採用などにおける差別的な待遇の早急な改善を求めます。国民の義務を内国人と同じように課しながら、その権利において差別されている在日同胞の現実が一日も早く是正されることを要望します。

⑥在日コリアンの現状に合った法的処遇の整備

 植民地時代から100年以上の歴史を持つ在日コリアンコミュニティも世代を重ね、すでに4世、5世の時代となり、オールドコリアンだけでなく、ニューコリアン(新定住者)、そして日本国籍者も増え、その歴史的背景や法的処遇も多様化しています。また、現在韓国に居住している韓国国籍の在日コリアンは、実際には「多文化韓国国籍保持者」ですが、内国民とは異なる住民登録制度によって管理されているため、社会福祉政策などで韓国国民としての制度の適用も受けられず、一方では外国籍者に適用される各種多文化家庭に対する施策からも排除されています。
 また、現在は韓国への往来が一定部分認められている「朝鮮籍」同胞の処遇の改善も必要であり、さらに、国籍法改正以前に生まれた、母系が韓国国籍の日本国籍の同胞が在外同胞ビザ(F-4ビザ)から除外されるケースも少なくなく、祖国との絆を形成する上で障壁となっています。
 これらは在日同胞の権利の問題であると同時に、今後の在外同胞を含む韓民族コミュニティの多様性発展という観点からも、より柔軟な検討と改革を要望します。

2.在日コリアンコミュニティの活性化

① 大阪コリアタウンへの支援の拡充

 戦後、日本に居住する外国人の中で多数を占めてきた歴史を持つ在日コリアンは、数多くの権益運動を通じて待遇改善や発言権の獲得を実現してきた経験もあって在日外国人の中でも特別な存在感をもっています。こうした経験と成果を日本の多文化共生政策に反映させていくことは、在日コリアンだけでなく、在日外国人全体の利益に貢献することでもあります。
 一方で、在日コリアンの多様化とそれに伴う在日コリアンコミュニティの縮小も同時に進行しており、その存在感と発言力の低下も懸念されます。
 このような状況の中で、様々な課題(人権、次世代育成、日韓交流など)に対応していくためにも、多様な在日コリアン団体や個人、韓国政府とのコミュニケーション・交流の機会を拡大し、より柔軟かつ効果的な支援を行うことが重要であると考えています。
 その具体的な課題として、多様化・分散化する在日コリアンコミュニティの活性化のためには、「可視化された象徴」的存在である大阪コリアタウンの役割が非常に重要であると考えています。
 大阪コリアタウンは、在日コリアンコミュニティの象徴であると同時に、韓国文化の発信拠点、歴史・人権を学ぶ場、日韓交流の場、地域における多文化共生の場としても広く知られています。こうした点を積極的に活用するために、大阪コリアタウンの活性化に積極的なご支援をお願いします。

②次世代育成のための青年支援の拡充

 今後の在日コリアンコミュニティにとって、次世代育成と多様なネットワークの拡大は非常に重要な課題であり、若い世代が出会い、学び、交流できる新しい仕組みやプログラムの開発も求められています。韓国政府が青年世代の自発的な活動をより柔軟かつ多様なチャンネルを発掘し、現地のニーズに合った、より実効性のある支援を行うことを要望します。

3.韓国社会との多様なコミュニケーション及び交流の拡大、

① 統合的な在外同胞政策推進体制の整備

 現在、世界各国に居住する在外同胞は、190カ国、700万人に達し、これは韓国国内人口5,000万人の約14%に相当します。 そして在外同胞は、その歴史的経緯や居住国との関係などを見ても非常に多様であり、それぞれが直面している課題も多種多様です。
 グローバル化の進展の中で、在外同胞の様々な問題解決に貢献し、在外同胞と韓国社会との結びつきを強化し、さらに韓国と居住国との関係を発展させていくネットワークを活性化させることは重要な課題です。このような大局的な観点から、統合的な在外同胞政策を推進する体制を整備していくことを要請します。
 2023年6月に設立された在外同胞庁は、まさにこのような目的で設立されたと理解していますが、その政策の対象が実質的には韓国で住民登録を行った経歴を持つ、自発的移住による在外国民またはその子孫に限定されているため、住民登録を行ったことのない在日コリアンが不利益を受けるのではないかという懸念の声が大きいです。
 非自発的な移住経緯を持つ在外同胞(在日同胞・在中国同胞・高麗人同胞)が在外同胞政策から排除されることなく参画できるような環境整備を要望します。

② 多様な在日コリアンとのコミュニケーション

 オールドカマー、ニューカマー(新定住者)、日本国籍者など、在日コリアン社会も多様化しており、居住地を考慮しても大都市圏と地方との差が大きい中、民団一辺倒の画一的な在日コリアン施策だけでは、在日コリアン社会の活性化につながらないことがこれまで十分に証明されています。
 日本各地で、人権擁護、民族教育、高齢者福祉、日韓交流などの課題を掲げて自主的に活動している団体、個人も少なくありません。より効果的な在日コリアン政策を推進していくためにも、上記のような多様な主体と幅広く交流し、在日コリアン支援政策の実施に役立つネットワークを拡充していくための積極的かつ幅広い支援を要望します。

4.南北関係・日韓関係の改善

① 朝鮮半島平和の実現、南北関係改善のための対応

 私たち在日コリアンは、南北分断という悲劇から直接的な影響を受けてきたため、何よりも南北の和解と交流促進、共存・共栄を望んでいます。残念ながら、北朝鮮が統一の放棄を宣言し、南北関係が悪化した厳しい状況ですが、だからこそ、韓国が朝鮮半島平和統一の理念を堅持し、南北の平和と共存・共栄は必ず成し遂げなければならない課題であることを継続的に表明することが重要であると考えます。 また、周辺諸国に対しても不必要に南北の緊張を高めるのではなく、朝鮮半島の平和実現のための対話を推進するよう、引き続きはたらきかけることを要望します。

②日韓関係改善のための対応

 日韓両国は、東アジア地域の平和と繁栄にとって不可欠で非常に重要な隣国関係であることはもちろん、在日同胞の生活にも日韓関係は非常に大きな影響を与えています。 これまで韓国政府の対応もあって日韓関係が改善され、人的・文化的交流が拡大していることは歓迎すべきことです。
 しかし、一方で、「徴用工(強制動員被害者)」問題をはじめ、様々な課題が引き続き残っています。私たちは、未解決の過去清算問題について、被害者の声に真摯に耳を傾け、建設的に問題解決を目指す姿勢を堅持し、関係改善に向け努力することを要望します。

③日韓交流プログラムの拡大

 日韓間には、経済・文化・スポーツ・青少年交流など多くの分野での交流・協力が行われており、現在、日本では音楽、ドラマなどの韓流コンテンツに関心を持つ人が増え、文化を通じて社会、歴史への関心も高まっており、今後も様々な分野での日韓交流の拡大に向けた支援を要望します。同時に、日韓交流の活性化、在日コリアンの次世代育成という観点からも、様々な在日コリアンとの交流や連携を図っていただくことを要望します。

2025年5月

特定非営利活動法人コリアNGOセンター

*****************************************************************

各政党からの答弁書

【共に民主党】

1. 人権擁護と生活権の向上

①ヘイトスピーチ(嫌悪発言)など人権侵害に対する積極的な対応(受容)

 2016 年ヘイトスピーチ防止法制定後も在日同胞に対する嫌悪発言が完全に根絶されておらず、最近でも東京地方裁判所でも在日同胞へのヘイトスピーチ加害者に民事賠償を命じる判決が宣告されたところである。特定国家出身者を対象にする嫌悪及び排除発言による被害が発生しないように、在外国民保護の観点から外交部が継続的に関心を持つようにする。

②在日同胞高齢者・障害者無年金問題解決(不受容)

 在日同胞が「韓国籍」という理由で高齢者・障害者年金を受け取れなかった状況に関しては理解しており、韓国人に対する、また別の差別だという点について残念に思う。ただし、この問題は基本的には日本政府の政策に関する事案であるため、韓国政府が直接的な行政措置をとるのは難しい状況がある。在日同胞が自発的に介護施設を設立して運営する事例が広がってきており、最近ではニューカマー高齢者のための施設運営事例もでてきている。これらに対しての直・間接的な支援を検討する。

③ 日本内外国人地方参政権の実現(受容)

 日本政府が相互主義的な観点から在日同胞にも地方参政権を付与することが望ましいという立場であり、積極的に協議していく。

④民族教育活性化、次世代育成支援(受容)

 在外国民のためにハングル学校などアイデンティティ涵養のための教育活動に対する支援を拡大し、次世代同胞育成事業を多様に発掘して推進することを公約に反映した。また在日同胞のハングル学校支援が拡大できるように制度改善案を積極的に検討する。

⑤ 韓国在住在日同胞の兵役等の義務及び権利(条件付受容)

 兵役義務を履行する過程で在日同胞が不当に差別されることがないように権益増進案を積極的に模索していく。

⑥在日同胞の現状に合った法的処遇の整備(受容)

 在外同胞庁が設置されてから長くなく、不備な部分が多い。今後在外同胞庁では在外同胞の移住国、居住地、移住の背景、移住時期などに応じた同胞政策を推進することができるように準備しており、法務部など主管部署と協議してビザ問題など改善する点がないか見て改善する部分は積極的に改善する予定。

2.在日同胞コミュニティの活性化

①大阪コリアタウンへの支援の拡充(受容)

 一般各地域の総領事館を通じて大阪コリアタウンのように韓人アイデンティティを涵養し、同胞ネットワークの向上に役立つ地域環境改善事業を積極的に検討し、推進していく予定。

②次世代育成のための青年支援の拡充(受容:公約反映)

 在外同胞庁の主導でハングル学校などのアイデンティティ涵養のための支援を拡大し、次世代同胞育成事業を推進する予定。

3. 韓国社会との多様なコミュニケーション及び交流の拡大

①統合的な在外同胞政策推進体制の整備(受容)

 2023 年、在外同胞庁の発足を契機により内実のある組織に整備し、様々な移住時期と背景を持つ在外同胞および在外国民の両方が満足できる統合的な在外同胞政策を樹立、推進していく。

②多様な在日同胞とのコミュニケーション(受容)

 移住時期、移住背景などによって多様な在日同胞の問題意識と政策需要を反映できるように在外公館を通じて活発にコミュニケーションできるようにする。

4. 南北関係、日韓関係の改善

①朝鮮半島の平和実現と南北関係改善のための対応(受容)

 在外同胞・在外国民は平和統一に寄与する主体であり、K―文化の優秀性を知らせる公共外交遂行の主役として、朝鮮半島の平和実現と南北関係改善のための対応過程に積極的な参加機会を確保する政策を展開する予定。

② 日韓関係改善のための対応(受容)

 日韓関係の改善の重要性を認識し、未来志向の協力関係をつくることができるように努力する。

③ 日韓交流プログラムの拡大(受容)

 日韓交流プログラムに在日同胞の参加機会が拡大できるように推進し、在外同胞庁がより在日同胞の次世代人材の韓国社会進出を多方面で支援できるように在外同胞協力センターの役割と機能を高める方向に改善していくために努力する。

*****************************************************************

【民主労働党】

1. 人権、平和、共生、自立市民の価値を広めるための貴団体の活動に感謝します。

2. 第21 代大統領選挙、民主労働党のクォン・ヨングク候補選本から、要望書に対する回答を以下のように送ります。

3. 私たちの候補と党に関心を持ってくださったことにあらためて感謝いたします。

– 以下 –

在日同胞の方々は差別と法的制約、民族教育の困難の中でも歴史を刻んできました。民主労働党はこのような生(歴史)から目を背けることはしません。

民主労働党は皆の尊厳を守る社会を志向します。日本政府の不十分なヘイトスピーチ対策、在日同胞の方々の法的地位及び高齢者・障害者の無年金問題解決のために民主労働党は最善を尽くします。

民主労働党は平和の価値を信じています。不信を画策し、戦争を扇動するすべての試みに反対します。朝鮮半島の平和定着と日韓関係の発展的未来建設に全力を尽くします。

ありがとうございます。

関連記事

お知らせ

  1. 第21代韓国大統領選挙にどう向き合うのか! ~コリアNGOセンター時局セミナー...
  2. コリアNGOセンターの多文化共生プログラムの詳細は下記リンクからご覧ください。
  3. 寒中お見舞い申し上げます。当センターでは下記の期間、冬季休業を取らせて頂きます。
特定非営利活動法人 IKUNO・多文化ふらっと
大阪コリアタウン歴史資料館
ウトロ平和祈念館
新時代アジアピースアカデミー(NPA)
コリアにルーツのある人のピアサポート「ソロ」
MInamiこども教室
キックアーツテコンドー